ティム・バートンの不思議の国のアリスを観てきました。

で、映画の感想と言うよりは、アリスという作品への感想になるんですが……。
何なんだろうな……あの、マッドハッターとチェシャ猫という存在の、アリス界でのぶっちぎりの、人々を惹きつける魅力は。

例えばジャバウォッキーが、アリス派生作品で活躍しがちなのは、分かるんですよ。
アリス・イン・ナイトメアでも、ドラマ版の鏡の国のアリスでも、そしてティムバートンのアリスでもそうだったんですが、大体ボスポジション。
それもそのはず、あいつは原作の世界で出てくる唯一にして完全無欠の怪物なキャラです。おまけに原作ではなんの出番もないぶん、かえってどんな風にでも扱うことが出来て、さらにバンダスナッチとジュブジュブ鳥いう、雑魚敵まで引き連れてくれています。アリスに物理的な大冒険させるにはもってこいのキャラです。もともとアリスの原作が夢落ちで、主人公が特に何かを乗り越えたり、成長したりしないまま、物語終了してしまいますので、派生作品を作るとなると、成長要因となるボスを独自に用意しなければならなくなる事が多く、このボスに白羽の矢が当たるのが、おおむねハートの女王かジャバウォッキーになわけです。コイツは分かるんですよ。

マッドハッターとチェシャ猫はそうじゃない。アリスの世界では最も基本的な、「アリスの話を聞かないまま、好き勝手かつ意味不明なことを、アリスに向かって喋り倒してくる」というキャラクター。ていうかアリスの登場キャラは大体みんなそう。代わりになれる奴はいくらでもいそうな気がします。
にも関わらず、この2キャラは大体派生作品ではおいしいポジションに収まっているんですよね。

歪アリと悪夢アリでは、チェシャ猫がアリスの心の友みたいなポジションですし、ハトアリと今回のアリスではマッドハッターがアリスにとって特別な存在だったりします。あと、アリス物じゃないですけど、天使禁漁区でぶっちぎりにキャラが立っていたのも、同キャラを元ネタにしたマッドハッターさんでしたしね。(由貴香織里って、絵と短編におけるどんでん返しは無茶苦茶上手いんだけど、長編でのキャラの立て方は下手な印象があるんですよね。その中で唯一成功したキャラに見えるのがマッドハッター)
どうも奴らには、二次創作ではメインに扱いたくなるほど、人を惹きつける魅力があるみたいです。
なによりかくいう私も、こいつらはぶっちぎりで大好きです。

……このうち、チェシャ猫は、多少分からないでもないんですよね。
原作では唯一「完全中立の、一歩離れた目線を持つ」キャラクターでしたから。
不思議の国の住人がへんてこで、そのことにアリスが戸惑っている、という事実を、ちゃんと理解している、珍しい奴です。さらにその上で「ここにいる時点で、あんたもいかれてる」と言ってのけるわけです。なんというか、ややメタレベルの意見言ってくるんですよね。
これは確かに、ちょっと格好いいし特別な感じがします。

でも帽子屋は特にそういう点があるわけではありません。
帽子屋が持つ数少ない他キャラとの違いと言えば、不思議の国と鏡の国の両方に登場する、という点くらいなのですが、鏡での登場はしょぼいというか、白の王様とか他のキャラとかが色々居る中、ちょこちょこ喋る程度の出番ですし、両方登場するという点では、三月兎も同じです。が、三月兎はさほど目立たないのに、マッドハッターばかり目立つ不思議。

大体今回のティムバートン版のアリスに出てくるマッドハッターのポジションって
  1. 白の女王の配下
  2. アリスの窮地に際し、物理的に敵と戦って救出してくれる、ヒーローポジション。
  3. 奇妙な言動でアリスをドン引きさせたりあきれさせたりするキャラがほとんどの中、唯一そのおかしな言動でアリスを楽しませ、彼女と心の交流を持ち、別れを惜しみ合う、へんてこなおじさん。
です。

どう考えても「白の騎士」のポジションですよ、原作では!!

これやるんだったら、本来は帽子屋じゃなくて白の騎士でいくはず。一応帽子屋も鏡では白サイドの人間でしたが、そんなもんはもっと他にもいました。帽子屋でなきゃならなかった展開なんて、牢屋にとっつかまって閉じこめられることくらいでしたよ!!(しかも原作では自分のところの王様に捕まってたしな) ってゆーか、派生作品における白の騎士の不遇っぷりは気の毒なほど。こんだけおいしいポジションのキャラにもかかわらず、存在自体をほとんどみかけません。
今回も、ここをあえて帽子屋をもってきてやらせたわけです。
白の騎士にない、そして他のキャラでもなく、「彼」にやらせたくなる魅力がマッドハッターにはあるわけです。

色々考えたのですが、まず一つ目のポイントは、お茶会にあるのかな、と。
アリスには面白いイベントが沢山あります。女王様とのクリケットとか、体の伸縮とか、鏡の国での宴だとか。
ただ、みんなが真っ先に思い出すのは、いかれお茶会だと思います。
どれに一番参加してみたいか? と言われても、わりとこれが挙がる気がします。
理由は、やはりお茶会が、一種の「宴」だからだと思います。しかもそこそこ少人数の。
鏡の国の終盤でも宴はやっているのですが、参加人数が多すぎてイマイチ参加できてる感がないんですよね。なんか宴って、少人数の方がありがたくて、楽しいイメージがあるというか。
しかも、いかれお茶会って、帽子屋が時間と喧嘩したせいで、永遠のお茶会なんですよね。終わらない宴です。
(余談ですが、アリスで時計というと白ウサギが真っ先に思い浮かぶんですが、時間がテーマなのはむしろ帽子屋なんですよね。不思議の国では時間と喧嘩して永遠に6時のままお茶会し続けてたり、鏡の方では時間の順序が逆なせいで、未来に犯す犯罪の罰を、現在牢屋へ繋がれることで受けていたり。二次創作でも時計がくっつくケースが多いですよね。悪夢アリで彼のステージが時計だらけで、もうお前何屋だったっけ? なことになってたりするのはこのせいかw)
終わらない宴、ってのはやっぱり多大なロマンがあるな、と思います。アリスの世界は夢の世界なわけですが、夢っていつか覚めしまうわけで、逆に言えば、夢のにおける究極の形というのは、終わらない宴なんじゃないかな、と。
さらにこのお茶会は、いかれお茶会と名付けられています。
参加者、みんなキチガイのお墨付き。
アリスの世界の住人を端的に言い表すなら、「みんなキチガイ」なわけで、これを象徴するかのようなタイトルが、このお茶会には課せられているわけです。
(これまた余談ですが、このみんなキチガイだということに言及するのは、チェシャ猫なんですよね。この辺もチェシャ猫の中立性というか、全体をやや俯瞰する目で見てる感の表れだなぁ、と)
キチガイだらけの終わらない夢。
これがいかれお茶会のテーマであると考えると、アリスのテーマに直結するのかな、と。
それゆえ、いかれお茶会は、人々の中で、アリスの世界を象徴する存在になっているのではないかと思います。

また二つ目の要因として、「人間である」というのも、帽子屋の大きな特徴と言えます。
お茶会のメンバーでは唯一です。
動植物が喋り倒すこの世界では、人間は逆に結構珍しかったりするので目立つんですよね。
で、人間だとやっぱ二次創作なんかで使う時も、アリスと対等に向き合わせることができるんですよね。
そんな人間達の中でも一度きりの通りすがりキャラが多いアリスの世界で、再登場を果たすキャラはほとんど居ません。王と女王と公爵夫人とコックくらいですが、王様とコックは正直目立たないキャラです。目立つキャラは、だいたい女。
人間で、異性で、目立つ出番があって、何度も登場する、という魅力的な条件を全部持ってるのが、帽子屋くらいってのも、大きな理由かなと。

とまぁ、これら諸々の要因が組み合わさったために、「不思議の国」を象徴するお茶会に参加している、もっとも二次創作で使いやすいキャラクターとして浮かび上がってくるのが、帽子屋なのではないかな、と。
概ねこういう推測が成り立つわけです。

あ、あともう一つ、キャラデザの勝利ってのは地味にあるよな、とも思う。
すこぶる特徴的な帽子(6シリング10ペンスの値札付き)にティーカップとポットに時計って、素敵なアイテム取りそろえてるからな、この人。
絵的に凄く映えるんですよね。
不思議の国の住人らしく奇妙ではあるんだけど、なんか奇妙かつ格好いいアイテムだらけだから、二次創作でもうっすら格好良く描けてしまう、ってのもでかいと思う。
とりあえず、この人の帽子に値札つけたデザインはジョン・テニエルGJとしか言いようがない。
逆に言うと、前述した「白の騎士」の扱いの不遇さもここにあるんだろうなぁ、と思います。
奴の見た目上の特徴って、馬に変な荷物いっぱいぶら下げているっつーくらいだからなぁ。どっちかっつーと馬の方の特徴に見えるというか、本体の方にはとくに面白いところないんですよね、見た目的に。
あと、ディズニー版に出れなかったってのが最大の不遇の原因かな。この点はジャバウォッキーも同じではあるんですが、ジャバはほれ、バンド名で有名になってるところあるし。あと、前述したとおり、ジャバウォッキーでなければ果たせない役目が派生作品ではありますし、怪物だから、そりゃ見た目にもインパクト出せますしね。やっぱキャラデザは大事、見た目超大事!!

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